「契約の束」モデルにおいては、基本的な考え方としては、「会社は株主のもの」という考え方がベースにあるため、経営者は、第一に、株主利益を追求することが求められる。
株主が、その忠実な代理人として経営者を選び、契約に基づき、それに経営を委託することを前提とする。
経営の成果が上がれば、経営者は高い報酬を得ることができ、経営の成果が上がらなければ、経営者との契約は解除されることがある(つまりクビになる)。
資本主義では、原則として、営利企業が株主利益を追求することにより、社会全体の利益を最大化する。
税引き後の株主利益を最大化するということは、一般論として、税引き前利益を最大化するということである。
会社が適切な手段によって利益を上げれば、法人税、固定資産税、従業員の支払う所得税、消費税などを通じて社会に貢献することができる。
会社が利潤を追求することは、すなわち納税や雇用などを通じて社会に貢献することを意味する。
現在、日本の営利企業は利益の17%程度を納税するよう定められている。
大きな利益を実現すれば多額の納税をすることとなり、結果として社会福祉のための政府予算を多く分担することになる。
つまり、株主利益を追求しない会社、あるいは株主利益を増大できない会社は、納税額が小さいため、社会に対する貢献が小さいとも言える。
「会社が株主利益のみを追求するという考えでは、従業員は大切に扱われないので、よい経営ができない」という誤解がある。
確かに、米国は株主重視の企業社会である。
米国を代表する企業であるGEやIBMは高収益企業であるが、従業員が経営者や株主に搾取されているという話は聞かない。
「従業員を大事にする」という意味が日米では大きく異なる。
しばしば、日本企業は従業員を大事にすると言われる一方で、米国企業はあたかも従業員を大事にしないかのどとく言われることが多い。
日本には窓際族という言葉がある。
クビにはできないため、仕事をしなくても給料はもらえる人達といった意味である。
その給料は、優秀な人が稼いだ利益から支払われる。
つまり、相対的に能力の高い人から能力の低い人に報酬が移転するため、能力の高い人はその成果よりも低い報酬を得ることになる。
このように、日本では能力の高い従業員が必ず大事にされているとは言い難い部分もある。
一方で、米国企業では、一般論として、能力に見合った報酬を支払う。
能力の高くない従業員を米国企業は大事にしないと言われれば、その通りであるかもしれない。
日本とは逆に、能力の高い従業員が大事にされる傾向がある。
株主の利益を追求するからこそ、米国企業は従業員を大事にするのである。
株主の利益を追求するために、従業員をいかに満足に働かせるかは極めて重要である。
従業員を大事にしないと、労働の流動性の高い米国ではまず優秀な人から逃げてしまう。
防ぐために、有能な従業員に正当な対価を企業が支払う。
企業の競争力が低下してしまう。
このように、株主利益を追求するには、従業員の利益の追求が重要であり、税収などの増加を通じて、社会全体の利益につながるのである。
さまざまな会社形態(有限会社、合資会社、合名会社、パートナーシップなど)がある中で、別世紀以降、世界的に株式会社制度の優位性が明確になった。
結果として、現在では会社といえば、多くの場合、株式会社を指すようになった。
特に、大会社はそのほとんどが株式会社で資本家が最適の経営者を指名することができる。
株主は、直接経営せずに、利益配当請求権や議決権を通じて経営に参画する権利などが認められている。
多数の株式を追加で発行することにより、小規模の株主から広く資金を調達して、多額の資金調達が可能である。
会社に関わる権利を、その効用を低下させることなく、自由に譲渡することができる。
そして、株式市場が形成されて売買が容易になると同時に、M&Aなど企業再編が容易になった。
要約すると、合資会社、合名会社と異なり、株式会社制度は資本と経営を分離でき、かつ分明確である。
株式会社制度が、他の会社制度と比較して優位な点は以下の通りである。
無限責任制を取る合資会社などと異なり、出資者の最大損失は出資分であるため、リスクが離した資本を小分けにして短時間に譲渡できるという特徴を持つ。
その結果、株式会社は広く薄く資金調達をすることができ、容易にM&Aができる。
つまり、株式会社制度は「会社をモノのように売り買いできる」ことと、「プロの経営者を採用できる」ことにメリットがあるのである。
こうした株式会社制度特有の利点を生かしたいと考える経営者は、株式を証券取引所に上場する。
株式会社の源流は、16世紀から17世紀頃の欧州におけるジョイント・ストック・カンパニー制である。
大航海時代、海外事業は典型的なハイリスク・ハイリターン事業であったため、それぞれの航海ごとに資本家が有限責任で投資を行う仕組みが出来上がった。
つまり、「金はあるが冒険に出るというリスクは負いたくない」という資本家と、「金はないが、金さえくれれば冒険も厭わない」という人のニーズが噛み合ったのがこのシステムである。
株式会社の起源は、1602年に設立された「オランダ東インド会社」にあるといわれる。
「オランダ東インド会社」は、それまで1回の航海ごとに清算していたカンパニーを、持続性のある組織にした。
出資者は、株式を通じて出資しており、有限責任である。
清算がないため、定期的に配当を支払う必要が生じた。
また、資本金を常時維持することとなった。
こうして、現在の株式会社の原型が出来上がった。
四世紀までは会社の規模が小さかったため、出資者の損失が限定されない無限責任会社(会社の損失を個人が無制限で補償する義務を負うことがある)であっても大きな問題はなかった。
そのため、株式会社制度の優位性はあまり目立たなかった。
別世紀に入り、大量生産、大量消費時代に突入して以来、資金調達が大型化し、あるいはM&Aが活発になった。
そして、企業が巨大化した。
この企業の巨大化が、株式会社制度の優位性を決定的なものにした。
一般に、低収益事業を持てば、株価が下落し、株主の不満は高まる。
資本市場が適切に機能していれば、株主の支持を得られない経営者のいる企業は、買収の標的となる。
あるいは、米国では取締役会がCEOを解任することも数多い。
株式市場とは、経営権をオークションする場であり、市場原理を通じ、経営者を含む経営資源が最適配分される。
つまり、弱肉強食の中で弱い企業は淘汰され、残った企業は強者のみとなる。
債券市場においても、信用格付などを通じて弱者を淘汰する仕組みがある。
「会社をモノのように売り買いすることはけしからん」と思う経営者は、その株式上場を廃止するという選択肢がある。
言い換えれば、株式市場は、「会社をモノのように売り買いすることが、資本主義経済を発展させる」という哲学を共有する経営者の集まりである(実際にはそうではないであろうが)。
資本市場が健全に機能すれば、弱者は淘汰され、常に強者のみが生存できることになる。
それが、資本市場における企業経営の原理である。
もちろん、弱者のために失業保険、生活保護、職業訓練などのセーフティーネットが用意されている。
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